2007年 9月11日


9月に入って速報後半戦も再開です。気が付けばあんなに暑かった夏も終わりに近づき、秋の気配が濃厚になってきました。実験も最も快適に進められる季節の到来です。

和田くん:Science vol.316 no.5832, vol.317 no.5836
 シリカメンブレン上に電子ビームでnmオーダーの孔(ナノポア)を開けたという話。a-hemolysinを参考に、ペプチド1分子が通り抜けられる様な孔を人工的に作り、ナノセンサーとして利用しようと目論んだらしい。ちょっと古い話になるが原子一個一個を並べて文字を書いたり、ヌクレオチドの相補性を利用してニコニコマークを作ったりとナノ工学の進展はいつも新鮮な驚きを与えてくれます。今回の技術もいつか我々の日常にフィードバックされる日が来るのでしょうか。

仁くん:Nature no.7150, 7151
 幹細胞関連4題。ES cellに代わる材料としてepiblastやfibroblastをベースにした幹細胞の作製を模索しているらしい。しかしcMycの添加によるガン化率の上昇や、完全な全能性はないなど、まだまだES cellには及ばない様子。このような動きはもちろんES cellが胚をベースにしている、ということに対する世論の倫理的批判によるものだろうが、個人的にはそんな回り道をせずES cellの研究を突き進めた方が最終的には医療現場への応用も早くなり、助かる命は多くなると思う。これに限らず我々は遺伝子組み換え食物、狂牛病問題、原発など‘よく解らない’モノを不必要に敬遠することが多々あるが、世論がそれらと正面から向き合って正しく理解し、その上で賛否を論じられるようにならなければこれらの分野での効率のよい発展は望めないだろう。未知のものに対して冷静な判断をすることも我々の義務だと思う。研究者にとっても、研究者でなくても。

小嶋(誠)さん:EMBO. J vol.26 no.8, 17
毎度おなじみとなった近藤孝雄さんのとこのKaiCの話。KaiCは24時間周期でリン酸化されることが既にわかっているが、2つあるリン酸化サイトがリン酸化・脱リン酸化されるタイミングはどうなっているのか?を細かく調べています。結果は非常に明快で反論のしようがない。このような問題提起−実験−結論とストーリーにぶれのない論文を出してみたいものです。そういえばATPaseとしてのKaiCの話がこないだの特定領域班会議でもありましたが、なかなか議論が盛り上がっていました。個々の分子が活性に周期性をもったATPaseとして働き、さらにそれらが集団として活性を同調させる。一分子計測という分野から眺めれば非常に興味深い題材なのかもしれませんね。


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