2015年2月23日

堀田さん Nature Vol. 517 #7535, Vol. 518 #7537
1) HIVウイルスのキャプシド構造についての論文。HIVウイルスは、宿主の細胞膜上で単位格子あたり6つのCA蛋白質からなる未成熟なキャプシドを形成した後、ウイルスプロテアーゼによる切断、再編成を繰り返して成熟なキャプシドを形成するらしい。この論文では、電子線トモグラフィー法によって未成熟なキャプシド構造中のCA蛋白質の構造を明らかにしている。
2) 細菌から下等な真核生物への遺伝子の水平伝播についての論文。細菌から細菌への伝播と異なり稀にみられる現象ではあるが、数億年という長い年数をかけて伝播した遺伝子が真核生物に適したものとなり、よい効果をもたらすことがあるという。論文では、ダニが細菌からの遺伝子伝播によってあるペプチドグリカンを特異的に分解する酵素を獲得し、ボレリアに対する抗菌作用を示すことを述べている。
3) 光反応によって細胞内小器官を特定の位置に局在させる手法を開発した論文。植物由来のLOV蛋白質が光によって構造を変えPDZという蛋白質と相互作用することを利用して、PDZにつないだキネシンなどのモータータンパクを介して細胞骨格に小器官をつなぐことができた。光を調節したり、ミオシン、ダイニンを共存させたりすることで自在に特定の場所に小器官を局在させることができるらしい。そんなにうまくいくものなのかと本間先生も驚いてみえた。

西野さん Science Vol.347 #6222, #6223
1) 遺伝子と表現型との関係についての論文。遺伝子が表現型として現れるまでには、mRNAの形成とリボソームによる蛋白質形成があるが、mRNA、リボソーム、蛋白質についてお互いをどの程度の量占有できるかという観点で相関を調べたところ、mRNAとリボソームの組み合わせが最も相関が高く、その段階が表現型に特に影響するということらしい。
2) 蛋白質間の相互作用界面が変異にどの程度耐えるかという話から進化の話につなげている論文。PhoQという蛋白質は、相互作用界面における1残基の変異でPhoPと相互作用しなくなるが、4残基の変異では相互作用を維持できる。このことからPhoQはそのような構造を経て進化してきているという考察だったが、変異体にはそういうケースもあるのだなと思った。
3) 外毒素CPEの結合によってそのレセプターの構造がdisorderし、タイトジャンクションが解離するというモデルを、構造から予想した論文。タイトジャンクションの解離によって、イオン流入が起こることによって細胞が死ぬらしい。
4) C型肝炎ウイルスHCVのRNA複製機構についての論文。RNAポリメラーゼとRNA断片の複合体構造から、モデルを提唱している。RNAポリメラーゼ中のイループ構造がRNA鎖を通す穴を開閉するのに重要らしい。

小野さん PNAS Vol.111 #37, Vol.112 #5
1) 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療法としての応用を目指した研究。AIHAは、赤血球表面の抗原を認識する抗体を産生してしまうことで赤血球が自己免疫系によって壊されてしまう難病である。論文では、酪酸などから作った生体に害のない高分子コアに赤血球の細胞膜をコートしたナノ粒子を血液中に投与することで、赤血球の減少が抑えられることを示していた。ナノ粒子は水と二酸化炭素にまで分解されるようで、早くヒトに使えるようになるといいと思う。
2) ブドウや柑橘系の植物の木部(水の通り道)にのみ感染するグラム陰性菌についての論文。この菌の外膜は接着因子としても機能しておりそれが感染にとって重要であるが、この膜から作成した小胞を木部に注射することで、木部の内壁面が小胞によって覆われ菌が接着できなくなるということだった。接着にかかわるのはXadAという蛋白質でAtaAやYadAと名前が似ているが、オートトランスポーターかどうかはわかっていないらしい。
3) イヌディステンパーウイルスの感染についての論文。このウイルスによる病気は狂犬病の次くらいにイヌにはよくあるものらしいが、タンザニアの国立公園で野生のライオンが大量死したことを受けて、感染経路やワクチンの効果を30年に渡り解析した結果、イヌからライオンへの感染がより起きやすく、広い地域でのワクチン接種でより予防効果が高いことがわかった。
4) べん毛(フラジェリン)を認識する免疫応答についての論文。これまで、フラジェリンを認識するNaip5蛋白質がその後のNLRC4のリン酸化にとって重要だとされてきたが、Naip5を欠損させてもリン酸化が起きたためNaip5がシグナル伝達のどの段階ではたらいているのかという新たな疑問が生じたことを示している。

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