アメリカ独立記念日に


 みなさんこんにちは。Utahはものすごく暑くなってきました。アパートの冷房がほとんど効かないので、95F(約35C)の中でこのレポートを書いています。今年は例年ほど暑くないと思っていましたが、ここ数週間で一気に暑くなりました。救いなのは夜になるとかなり涼しくなるので、まだ暑くて眠れないことはありません。さて、今回はW杯をずっと見てきて、そして先週のアメリカ独立記念日を済ませて、このところずっと考えていることの一つを紹介したいと思います。

W杯日本チームを見て
 最初にお断りしますが、僕はサッカーにはそれほど詳しくありません。ずっとやってきたバレーボールならば結構ウンチクを語れますが、サッカーに関しては普段ぼーっとテレビで観戦する程度です。でもW杯となると世界中の国が集まりプレーするので、98年のフランス大会からは結構チェックするようになりました。いわゆる「にわか」ファンというやつです。また今回は地元日本で開催されることもあり、日本で無事に運営が行われるかどうかも興味がありました。結果として大規模なテロなどは全く起こらず無事に韓国との共催は終了し、ほっとしているところです。
 前の報告にも書きましたが、私達の研究室では学生さんと僕でW杯は大いに盛り上がっていました。毎朝結果をスコア表に書き込み、このプレーはすごかった、このチームを応援していたんだけど惜しかったなぁなどと、キッチンで15分ほど話しこんでいましたね。大学でも、アメリカ人はあまり関心がないけれど外国人同志となると挨拶代わりに「昨日の試合はどうだった?」という感じで話が始まります。本当に好きな人は、ESPNで放送される夜中の中継を見ているので、かなり不規則な生活になってしまい眠い眠いというのが最初の一言だったりします(笑)。
 そんな中、日本チームは僕らの控えめな予想を大きく覆し、なんと予選を1位通過しました! 予選突破を決めたチュニジア戦は友人の家で観戦しましたがみんな夜中なのにゴールの瞬間は大歓声を上げてしまいました。残念ながらトルコ戦では良いところが出ず負けてしまいました。とても残念だったのが、雨のせいなのか、それとも疲れのせいなのか、日本チームはそれまでのまとまりとか勢いを見せることがなく、ばらばらに見えてしまったこと。もう少し勝ちに行くぞという気迫のようなものが感じられたら、負けにも納得出来るのですが、どうも淡々とプレーしているような気がして残念でした。ま、ずっとチームを見ている友人の話では日本は時々こういう試合を見せることがあったそうで、悪い面が出てしまったとの解釈と、やはりトルコチームの方が上手だったということでした。最後の試合は自分としては悔いの残る感じの試合でしたが、ホームの利点やくじ引きに恵まれたとは言え、予選を突破できたことは日本代表にとっても大きな自信になっただろうし、プラスに働くことは間違いないと思いました。多くのアドバンテージをもらってもなお勝つことのできなかった女子バレーにも、いい薬になったような気もしますね。これはあくまで想像でしかありませんが、サッカーではあまり「根性」というイメージがなく、個性が重要視される一方でチームプレイも大事なわけで、偏見かもしれませんが泥臭さと以うものをあまり感じません。これは結構いいことなのではないかと思います。チームプレーは大切だけれど個人のひらめきや勘も見逃せないというところが、日本の若者をサッカーに引き付ける一つの要素なのかなと思いました。

韓国チームに対する思い
 私の所属する研究室には韓国人の大学院生さんがいます。彼もサッカーが大好きなので、今回のW杯をとても楽しみにしていました。試合前には、1つ勝ってくれればそれでいい、と話していた彼は、最初のポーランド戦で始めて韓国が勝った時は本当に嬉しそうでした。2試合目のアメリカ戦は僕もTV観戦しました。この時は相手に先制されながらもなんとか引き分けに持ち込んでいたので、韓国はもろくないなという印象。ただこの日の韓国チームは慎重に行き過ぎているのか、後ろ向きの細かいパスが多く、またそのパスが結構インターセプトされたりしていて、緊張もあるのでしょうずいぶん動きがおかしかったように思いました。これでは次のポルトガルには勝てないんじゃないかなぁと思ったものです。それと会場を真っ赤に埋める大応援団と、鳴り響く韓国への大声援はやっぱりすごかったですねぇ。問題となったアン・ジョンファンのアポロ・アントン・オーノへのおちょくりパフォーマンスは、見ていた時には何をやっていたのか全く分かりませんでしたが、あとでスケートのまねをしていたと言うことを知り、大爆笑しました。えらい細かい芸もはいっているなぁなどと、妙に感心し、ラボに来たらアメリカ人の学生さんが、「おい、あのパフォーマンス見た? 腹抱えて笑ってしまったよ」とのコメント。ボスはいくぶん皮肉も入った感じで「W杯の試合の内容は知らないけれど、このパフォーマンスだけは何度もTVで流していたねぇ」、と言ってました。一方で韓国人の学生さんは「あれはダメだろう、はずかしいよ」と言ってました。その後あちこちで多くの批判が出てきていましたが、僕も周りのアメリカ人も、ただのジョークだろ、と流しており、なぜそんなに騒ぐのか分からんと言う感じではありました。それが、ある掲示板で、「あの態度はどうってことないというなら、もし日本の選手がフランスと試合をしてゴールを決めた時に背負い投げのまねをしたら、どう思うか?」という投稿を見て、大笑いしていた自分が恥ずかしくなりました。結局他国の間で起こっていることだから、どうでも良く思っていたのですね。僕自身は今では「ホスト国」として相手チームをレスペクトする態度に欠ける(しかもスケートはサッカーとは関係ない)ものであったと、思うようになりました。

 日本が負けた日、韓国はイタリアを下して8強にのぼりました。素人の僕には判定基準がどちらに甘かったかなどはわかりません。でも日本の試合を見た後に彼等の闘いを見ると、勝ちたいという気迫とチームのまとまりを感じました。次のスペイン戦では、イタリア戦の時よりもさらに韓国チームのまとまりや勢いを感じました。ムードに乗っているチームはバレーでも同じような勢いがあります。ディフェンス、オフェンスとも脅威を感じました。スペインの方がストライカーのラウールがいないせいか、最後の一押しが足りなかった気がします。素人目には、ゴールラインを割っていた場面以外は審判の判断はそれほど変ではなかったような気がしました。むしろ、韓国チームのおそるべき底力を感じました。ドイツ戦は韓国チームは堅い守りを崩すことができず、また疲れているように見えました。トルコ戦は少し気が抜けたのかな。まあ、全体として僕にはライバルの韓国の躍進がうらやましくもあり、感心しました。
 賞賛と羨望の混じったちょっと複雑な感情だったというのが本心ですが、そんな気持ちを持ちながらあちこちのサイトを見て行くと、その気持ちはだんだんと複雑で悲しいものに変わって行きました。

韓国および韓国人に対する感情
 日本のマスメディアは韓国を応援しよう!という報道一色らしいのですが、それに対してインターネットで見られる意見や感想は驚くほど韓国に対しネガティブなものが多かったです。日本が負けたことについての分析や将来への展望などを知りたいなと思ってあちこち行ってみると、日本チームの話よりも韓国がイタリアに勝った試合の誤審問題でネットは賑わっていました。日本チームのことより韓国チームのことでエキサイトしているのを見て、自国のことはどうでもいいのか?と少し異常な感じがしました。まあUSA戦でのパフォーマンスのことから少しずつネガティブなものが出て来ている気がしましたが、イタリア戦、スペイン戦でそれは一気に噴出した感じです。確かに、韓国側に問題があったとは僕も思います。行き過ぎた祖国の応援、相手国をレスペクトしないところなど、ホストとしての態度はあまり日本人から見て礼儀に欠けるものがあったと思います。しかし、余りにも多くの反感のこもった投稿などを見ていると、がっかりしてしまいます。僕の周りではW杯の結果を追っている人は多いのですが、ホスト国の態度とか審判問題などはほとんどの人が無関心でした。誤審といっても、「それもサッカーのうちだろ」といって、not big dealというわけです。従って自然と韓国人の学生さんと僕との間でそのへんの話をすることになります。彼は、いくつかの行き過ぎた応援のことやアンのパフォーマンス、トッティに対する退場処分などはおかしいと思っているようで、I feel ashamedと言ってましたが、それ以上に、これまで一つも勝つことができず国際的にも注目されなかった韓国が、ここまで世界から視線を浴びることが出来たことを素直に喜びたい、という気持ちがきっと韓国の人には強かったのに違いない、自分もあのチームの頑張りには本当に誇りに思いたいと言ってました。それを聞いて僕も納得し気持ちが少しすっとしました。また他の国の人から見れば、韓国での日本に対する反応などもnot big dealに見えるようです。Momoに言わせれば、韓国と日本はライバルだから、相手国が負けたらやっぱり嬉しいもんだろ? だからそんなに気にするものではないんじゃない? というわけです。アメリカ人の知り合いも、W杯やオリンピックは、健康的な祖国愛を示す機会だから、戦争にならない程度で盛り上げることには問題ないんじゃないの? とのこと。 しかし、何かまだ僕の心の中では引っ掛かるものがあります。

韓日関係を少し考えてみた
 そこでこの機会にと思い、ネットを使って少し韓国との関係などを考えて見たいとあちこちサーフしてみました。あるサイトには投稿もしてみました。またラボの韓国人の学生さんともランチのときに思っていることを話してみました。思ったことを日本やこちらにいる日本人の友人にメールで聞いてみたりもしました。ちょうどその頃に、history channelで南京大虐殺の特集をHistory undercoverという番組で取り上げていたので、それも見ました。本当にいろいろなことを感じ、日本人としてど自分はどう言う意見を持つのか、今でもまだ頭の中はもやもやしています。思ったことをいくつか上げてみます。

まず一つめは、日本人は「あいまい」であるがために損をしていると言うこと。これは特に自分にも自戒を込めて言いたいことですが、アメリカだけでなく世界の国々と日本がつきあっていくためには、はっきり分かりやすく態度を示す必要があると言うこと。研究発表でも質疑応答の時でも、分かりやすく問いかけ、答えも理路整然としたものであるようにできるだけ心掛けたいとずっと思っています。生意気かもしれませんが、日本の学会などでも、質問の内容がクリアでなく、またそれに対する答えも漠然としてしまっていることがかなりあるような気がします。日本人のアメリカでの発表を見ると、せっかくのいいスライドプレゼンテーションをしているのに、語尾がききとれないぼそぼそとした話し方をしてしまうので、聞いている方は話を追うのが大変だったりします。Law and orderを見ていていつも感心するのは、裁判でのプレゼンテーション、質疑応答のするどさですね。ある在日韓国人の方の投稿で、「日本は何故何度も過去のことを謝罪しなければならないのか」という問いに対し、「おそらく韓国やその他アジア諸国は、日本人の態度が曖昧で政府ごとに言うことが違ったりするからどれが本当なのか分からないために、噛み付いてしまうのではないか」というものがありました。確かに政府要人の見解が異なり、不用意な発言が出るたびに他国からとっちめられることが多く、何をやっているんだというところはありますね。謝罪の話をボスや学生さんにすると、no more apologyと言います。いつまでも謝るのでなく、けじめだけきっちり付けて将来のことを考えることの方がよっぽど生産的だと言うわけです。僕もその通りだと思います。考えてみれば、こちらで出会った韓国人で僕が日本人であることを知って「過去の謝罪をしろ」などと言うひとは一人もいませんでした。むしろ中国の方のほうが、過去のことをどう思うのか気にしている方が多かったです。問われたこともあります。でも彼等は非常に真面目で、僕から謝罪の言葉を聞き出したいというのでは決してなく、あくまで対話としてどう思っているのかを聞きたいという方ばかりでした。僕自身は、もっと過去に日本人がどんなことをしてきたのか、自分なりに知識を入れ自分で判断し、悪いところも良いところもできるだけきちんと評価した上で話をしたいと思います。ただ、歴史と言うのはむずかしく、発表されている書物もどこかで操作されている気がしてなかなか客観的に読めないんですよね。先ほどのHistory channelの特集でも、中国側から見た形で描かれており、いかに日本が悪かったかということに焦点が置かれており、日本人としては見るのが辛い内容でした。番組の終わりでホストのアメリカ人が、「日本がこの歴史を認めることはまだ先であろう。虐殺はでっちあげだとして認めない学者がいるのだから」と、ある著明な日本人歴史学者(名前は出なかった)のコメントを結びに使っていました。それを見て、憤りを感じましたね。これではまるですべての日本人が南京のことを認めていないようではないか。そうじゃない、そんなふうに思っている日本人はマジョリティーではないし、虐殺そのものの事実は日本人の多くが悪いと認めている(と思いたい)。番組をみてがっかりしてしまいました。戦後生まれの僕らの世代は実際に戦争に関わったわけではないので、僕らがアジア諸国の人たちと会ったときに謝罪するのは変です。僕らは何もしていないのだから。でも、過去に何があったか、その事実をきちんと踏まえることは絶対に大事なことだと思いました。

二つ目は少しだけ韓国のことが分ったような気がすること。昔知り合いに「スカートの風」(だったと思う)という、日本に留学していた韓国人女性の書いた本を読み、非常に衝撃を受けたことがあります。そして僕自身多くの韓国人に出会い、話をして、日本人とは結構考え方も気質も異なるのだと言うことが最近わかるようになってきました。個人を見てそこから韓国人像をくくることはできませんが、怒った時や不快に感じた時にとことん言い合う激しさ(意地っ張りだなぁと思う時もある)、思ったよりもクローズしている韓国人社会、一度親しくなるととても仲良くなるし目上の人はとことん立ててくれる礼儀正しさ、そこまでしなくてもいいのにとすら思える優しさ、などが僕の中にはあります。ただ、韓国人の社会と言うのは複雑なルールがあり難しくて、international centerのValerieですら、まだまだ良くわからない、と言います。僕にも、前からここでも書いていますが、どうして韓国の人たちはアメリカの中でも固まってしまい、他の国の人たちと交わらないのか、ということについては今でも分かりません。一つの解釈として、学生さんが話してくれたのですが、「朝鮮半島はずっと大国に脅かされ、支配されてきた歴史があり、心の奥底に劣等感があると思う。それがこのW杯でヨーロッパの国々を倒したことで自分達にもやれば出来るという誇りが出てきた。それが過激になってしまい、やり過ぎた応援になってしまったのだと思う。半島の人が心の底にある劣等感を乗り越えた時、人々は余裕を持って他国に接することができるのではないか。誇りを持つことができたという意味で今回のW杯は大きく評価出来るし、これから韓国は変わっていけると思う」とのこと。これを聞いて、アメリカでも自分達を守り存在感を示すために、社会を作り韓国人のアメリカでの地位向上を進めてきたのかも知れないと思いました。

三つ目は、日本に対する自分の思いが少しずつですが煮詰まってきたかなと言うこと。ここ数週間ほどネットやメールを通していろいろなやり取りをしてきました。あるサイトでアメリカに住む日本人としての見解を投稿したところ、思わぬ反発を受けてびっくり。それもそのはず、あとで書いた内容を見ると、「アメリカではこうだから日本もこうすべきではないか」という気持ちが見えてしまうような書き方でした。日本人は外からの圧力を嫌うという基本的な国際感覚をすっかり無視したもので、自分はまだまだわかっていないと反省しました。個と国は分けて考えなければいけないことも、今まで以上に感じました。煽りや暴言も多いですが、多くの人は冷静に物事を見つめているということも学びました。自分はHistory channelを見た後の後味の悪さや、道頓堀で大騒ぎをしている日本人たちを見て、はずかしいと思ったり情けないと思ったりしました。今までにも多くの日本からの留学の方と出会い、日本の環境の悪さを聞かされてきました。その度に日本人としての誇りというものが少しずつ崩れていきました。しかしその一方で、日本のことがやっぱりどうしても気になる自分というものは隠せないことにも気がついてきました。嫌なところ、悪いところが見えるのは、それだけ日本のことがスキであることの裏返しなのですね。NYの友人が話してくれましたが、9/11以降、NYでは多くの人がアメリカの国旗を車やビルに掲げ、祖国に対する愛国心を示していたことに素直に心を動かされたと。その国の国民として堂々と生きることが愛国心をもつということではないかと。昨年から多くのスポーツ観戦に出かけ、試合の前に必ず歌う合衆国国歌と国旗掲揚、時にあらわれるUSAコールを肌で感じてみて、こういうところから自分はアメリカ人なのだと、子供は感じて育つのだろうなぁと、堂々と国歌や国旗を振りかざせるのはいいなぁと、そういう思いは確かに僕の中にもありました。君が代や日の丸にはなんとなく複雑な感情をもってしまうのはやっぱり損しているのかなぁとは思います。我々戦後第2世代は、過去に対する認識はあれど実際に体験しているわけではなく、また戦争を起こしてまでアジアに進出したいと思う人は全くいないでしょう。そんな我々はもっともっと世界各国と対話をして、昔犯した過ちは二度としないことを訴える一方で、堂々と国歌を歌い日の丸を掲げて日本の選手を応援していけばいいと思いますね。僕は今の若い世代の人たちが少し苦手で、どうしてもマナーが悪いとか自分勝手だという目で最初見てしまいがちです。でも、そういう偏見の目があるからこそ、彼等も同じ目で見つめ返してくるわけですよね。前にデートレイプの話を日本人の若い留学生さんに話したことがあります。彼女はいかにも今ドキに見える若者ですが、とてもしっかりした意見を持っていて、こちらの方が本当に恥ずかしくなってしまうほどでした。比較の次元が違いますが、他国の人と接する時も、こわいとか偏見を持たずにできるだけ心を開けて行きたいものです。どうもネットでのやり取りを見ていると、日本語でも英語のサイトでも相手に心を開けないで言いたいことだけ言っているために、荒れてしまうことが多いように思います。聞くべきところは、たとえそれが耳の痛いことであってもきちんと耳を傾け、それに対して自分の思っていることをはっきり伝える、そして、悪いところだけに目を向けるのではなく、きちんと評価すべきところは評価することが、日本人としてしっかり誇りを持つことになるのではないか、と思っています。ある人の意見に、「自国の短所を外国人と一緒になって大声で非難するような人間にはなりたくない」というのがありました。大事なことを自分に向けて言われているような気がしました。

この場を借りて、自分の思いをまとめさせていただきました。感情の垂れ流しにならないよう気を付けて書いたつもりです。御批判のある方、メールをいただけると幸いです。そしてこの数週間僕と交信してくれた方々に感謝します。

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