もらった勇気


 こんにちは、小嶋です。更新をほとんどしなくなりましたが、その一方でVISAやtax returnに関する御相談をいただくことが増えてきました。今回は少しそのことを書き、またこのところあった出来事を書いてみたいと思います。

VISAの制度は刻々と変化している
 昨年のH-1B VISA更新の報告後、いくつかお問い合わせを受けました。そして先日も御相談をいただいたのですが、その際感じたことは、私の更新はずいぶんとスムーズに行われたのだと言うことです。私の場合、2 year ruleのwaiverを取得しなければH-1Bへの更新はできませんでした。いろいろお話を伺っている内に、waiverのrecommendationがUS department of StateからUS department of Justiceに行った段階で(その際に通知が手許に届きます)、H-1Bの申請を開始できるようです。私はのんびりしていたので結局US department of Justiceから正式なapprovalの通知をもらってから申請を行いましたが、そこまで待たなくても良いようです。というよりも、どうも、正式のapprovalを待っているといつまでも待たされてしまうようです。実際、I-797を取得した後になっても、approvalの書類は届いていない例をいくつか聞いています。問題なのは、このrecommendationを取得するのに、私の場合は書類提出後わずか1ヶ月ですみましたが、現在は少なくとも2ヶ月、場合によっては4ヶ月以上かかっているようです。従って、もしもwaiverをしなければならない場合は、できるだけ早めに始めなければなりません。また、これも大事なことですが、H-1Bではポスドクとして採用できない決まりになっている大学もあるようです。分野によるのかもしれませんが、私の知り合いはせっかくwaiverを取得したのに採用を見送られてしまいました。従って、このwebを御覧になっている方で、アメリカでのポスドクを希望されている方は、よく相手の状況を調べた上で、J-1でビザを取得するのかH-1Bで取得するのか、考えた方がいいと思われます。今日3/16付けで、昔の報告ページも修正させていただきました。3年前のアメリカにいながらのJ-1更新の手続きも、現在は不可能になっています。カナダ、メキシコでのスタンプ取得は可能らしいですが、私には分かりません。ということで、少し言い訳のようになってしまいましたが、私の報告はどうか参考として受け止めていただくようお願い申し上げます。

もらった勇気
 2月から現在にかけて、論文書きの作業に入っています。なかなか思うように進まず気も散ってしまい、非常にフラストレーションがたまっていましたが、なんとかそれも先週ほぼできあがってきました。もう少しです。そんな中、例年通りUの女子体操の試合を見てきました。
今シーズンは我が大学は本当に苦しんでいます。シーズン最初のホームゲームで、23年ぶりに負けて以来、どうもちぐはぐなのです。エースのKulikowski選手を怪我で欠き、他の選手も今シーズンはどうも不調なのか安心して見ていられないです。平行棒や平均台からの落下はかならずあり、ゆかでもしりもちをついたりしてしまうのです。2月最終週に見に行った試合では、本当にみじめな負け方をしてしまいました。いったいどうしたんだと言う感じです。チームもバラバラ、各選手は必死で自分達の演技をしようと集中しますが、緊張し過ぎてなのか誰かがミスをすると連鎖反応のように、ばたばたと大きな失敗が続いてしまうのです。
3/7の試合はそんな中で行われました。相手はNo.12のU of Washington。会場はホーム1勝3敗という最悪の成績にかかわらず、1万人近い観客で埋まりました。この日はもう2度とみじめな演技はしないと言う凄く気合いが入っているように見えました。最初の跳馬ではまずまずの出だし。大きなミスはなく、FreshmanのRiffanacht選手のきれいな着地もあってなかなかいい感じです。しかし、次の段違い平行棒では、最初の3人が連続して落下。いつもは失敗をほとんどしないJuniorのLeclerc選手は残念ながら8点代のポイントとなってしまいました。この段階でUはWashingtonに大きく引き離されてしまいます。会場に「ああ、また今日もダメか」という雰囲気が漂いはじめました。しかし、この日はそこからが違ったのです。悪い雰囲気を変えたのは、seniorのKim Allan選手。彼女の平行棒の演技は気持ちの入った力強いもので、着地もびしっと決まり、思わず彼女は感情を爆発させたガッツポーズを見せます。「沈んでなんかいちゃダメだ」という彼女の気迫が、残りの2人Vituj選手とKulikowski選手のすばらしいいつも通りの演技につながりました。どうも最初の悪い演技の印象が響いているのか、採点はそれでも辛めでした。実はこのAllan選手、2年前に大怪我をして、昨年は復帰したものの集中力に欠けて、いつも危なっかしい演技だったのですが、今シーズンは本当に不安定なUの中で気を吐いています。
驚くのは、この次の平均台。前の週で2人が落下して負けの原因になってしまったわけですが、この日は前回落下したHoffmann選手が汚名ばん回のいい演技を見せてチームを勢いづけると、またもやAllan選手の気迫のこもったノーミスの演技が飛び出しました。続くEberle選手は平行棒での失敗を取り戻す9.95のほぼ完璧な演技、今一番安定しているVituj選手が自己最高の9.975と会場は嫌がおうでも盛り上がってきます。そして極め付けはKulikowski選手の息を飲む美しい完璧な非のつけ所のない演技を見ることができました。揺るぎない着地を決めたとたん、会場はおおきな拍手とともに誰彼となく立ち上がっています。そして出た、10.00! 会場はその瞬間物凄い地響きのような拍手と歓声が鳴り響きました。かわいそうに、ゆかの演技を控えたWashingtonの選手は耳を手でふさいで必死に集中しようとしている程です。あまりにもお客さんの歓声がすごいので、フロアにいるスタッフも驚いて客席をみんな眺めてしまいました。
3種目の演技が終わって依然behindではありますが非常に僅差に追い上げたUは、次のゆかでも「これをどうしていつもできないんだろう」という演技の連発。ホームのアドバンテージを活かして、各選手の演技の前に会場を拍手で盛り上げ、選手もそれに乗り凄くいい雰囲気でした。前回すっかり足を引っ張ってしまったHofmann選手は、初めてのゆかの演技でしたが、東欧の踊り(彼女はドイツ出身)を取り入れた楽しいルーチンで、会場も手拍子ですっかり乗って楽しく見ることができました。こうして結局Uが勝ったわけです。その日のMVPは気迫のあるプレーでUを目覚めさせたAllan選手に行きました。僕は自分がスポーツをやっていたこともありますが、すごく心を動かされました。Allan選手の平行棒の演技を見て涙でそうでした。勇気をもらった気がしました。腐っている場合ではない、今自分にできることをしっかりやらなければと、心に強く誓った夜でした。

The Pianist
 さて、前回書かなかったのですが、1月末にThe Pianist(邦題:戦場のピアニスト)を見てきました。これは衝撃の映画でした。ピアノをやっていた者にはたまらない映画なのではないかと思います。3時間程の長い映画なのですが、まったく飽きることなかったです。ラストシーン近くでバラード1番を弾くシーンがありますが、もう周りのことなど全く気にならずに涙がじゃじゃもれでした。ヒーローものでなく、ただただ逃げるだけしかなかった、しかも人の善意によってかろうじて生き延びて来れたと言う、お世辞にもかっこいいとは言えません。でも、弾きたくてしかたなかった、彼が、殺されるかもしれない極限状態で、魂の演奏をするシーンは、誰がなんと言おうと、心を揺さぶるものでした。ここ数年で一番頭をガツンと叩きのめしてくれた映画でした。戦争のおろかさ、信じられないような残虐な人間扱いに打ちのめされる一方で、心の奥底から溢れてくる生きたいという、生々しい感情が僕の心を揺さぶりました。ナチスがやってきたことは糾弾されるべきひどいことではあるけれど、この映画はナチス糾弾の告発映画ではなく、簡単に奪われて行く命と、苦しみながらも生き残って行く命があることを対比させることで、生きて行くことがどれだけすばらしいことか、生命の大切さを淡々と訴えているような気がしました。この後、「シンドラーのリスト」「ライフ イズ ビューティフル」を見ましたが、どれも確かに優れた作品ではあるのですが僕には、The Pianistの衝撃が余りにも強かったのか、それ程大きな感動を得ることはありませんでした。
この映画を見てから、何人かと話をして、しかしいろいろな見方があるということを感じました。悲しいことですが、ユダヤ人が現在パレスチナの人たちを弾圧し虐殺を続けていることは事実であり、この映画に素直に入っていけないと言う人もいることは良く分かりました。難しいことです。ナチスのやってきたことが半世紀たった今でもこうして訴えられ続けるのは、ユダヤ人の多くが白人であり、アメリカで力を持ちかつ映画産業を育ててきたと言う面があることは否定できません。2000年以上に渡り虐められ弾圧されてきたからとは言え、それを理由にパレスチナの人たちを殺してよい訳はありません。ただ、そういう背景を差し引いても、この映画を見て感じることは大切なことのような気がしました。キネマ旬報によれば、中国製作の「鬼が来た」という日本軍の暗い面を描いた映画が公開されたようです。こうした映画が中国や他のアジア諸国で製作され公開されることは、その国の歴史観をとらえることができ、好ましいことのように思います。暗い記憶は忘れたいのが本心ですが、私達日本人は過去のことを事実だけでも理解し、二度とくり返さないよう努力すべきだと言うのが僕の考えです。アメリカは結局イラクとの戦争に向かうと思います。平和への外交努力だけは、最後まで続けてほしいです。

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