思い |
H-1Bでのポスドク採用
UC Berkeleyでポスドクをなさっている読者の方が、数年前にポスドクを始める時に渡された資料の中に書いてあった、H-1B 取得条件の項の完全なコピーを送ってくださいました。どうもありがとうございました。カッコの中は彼の注釈です。
H-1B Status
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* The "H-1B Temporary Worker" status -- an employer-specific status -- has become more difficult to obtain in recent years.
The University of California at Berkeley will file a petition for this status under the following circumstances:
(a) an international employee has used all time available on a J-1 scholar status;
[ J の時間を使いきってなお延長する必要がある場合 ]
(b) an international employee is coming to UC Berkeley to accept a tenure-track position;
[ assistant professor or higher になる場合 ]
(c) UC Berkeley wishes to hire a nonimmigrant who is currently in H-1B status with another employer;
[ 他の大学等ですでにH-1B worker として働いている場合 ]
(d) an international employee has compelling reasons why s/he does not wish to or cannot change to J-1 scholar status.
[ J-1 が不可能というはっきりした根拠がある場合 ]
* In addition, the H-1B employee must be paid a salary which meets the "prevailing wage" standard for that type of employment in Northern California.
* Since this status involves filing a considerable amount of paperwork and substantial time to receive approval (the process takes a total of approximately 4 months), it is used only under specific circumstances, and only with agreement between SISS and the host department.
* At UC Berkeley, this status is not used for part-time research positions.
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A department of scholar with interest in this status should consult with the
SISS Office at least four months in advance of the projected employement.
戦争のこと
アメリカにいる以上、この問題を避けることはできません。ここに書くのは勇気がいることですが、少し今の思いを書いてみます。
私の立場は「戦争に反対だが、始まってしまった以上、早急な解決を願うことしかできない」です。アカデミー賞の授賞式を御覧になった方は御存じかも知れませんが、The Pianistの主演だったAdrian Brodyがlead actorで受賞し、その時のスピーチがもっとも心に響きましたし、私の気持ちに一番近いと思いました。過激なMoore監督のスピーチは、あれは彼の持ち味だから仕方がないけれど、あの場には相応しくないものだったと思います。特にあの日はアメリカ人の被害が報道されたラフな一日で、なおさら反感を買ったと思います。
今回の戦争は「イラクの解放」を全面に出してアメリカは戦っていますが、国連を通して世界の同意を得られなかったのに始めてしまったために、僕には賛成しかねるものがあります。アメリカが世界のジャイアンになってしまったこと、ジャイアンにとって気に入らない国は(弱ければ)攻撃してしまう前例ができたことには、残念です。しかし、もう戦争は始まってしまった。そしてアメリカの雰囲気も日ごとに変わってきています。
最初の数日はアメリカの被害者も少なく、楽観的なムードで、戦争は一週間程で終わるのではないかとすら思われていました。反戦のデモや運動もアメリカ国内でけっこう激しく行われ、中には「この戦争には吐き気がする」といって、道路にゲロを吐いて反戦のアピールをしている人たちすらいた程です。しかし、先週の日曜日あたりから戦争は長引き、簡単には終わらないのではないかという見方が出てきました。被害者が増えるにつれ、戦争への人々の思いは複雑なものへと変わってきています。新聞やテレビ、ラジオでこの頃頻繁に見られるようになったのは、戦場へ愛する人を送った家族や恋人たちの談話です。「我が国のために戦場で命をかけて戦う家族や息子・娘のことを思えば、反戦運動を見るのは耐えられない」というものです。また、湾岸戦争後イラクからアメリカへ移住してきた人たちの、「サダム独裁下のイラクは本当にひどい」という強いアピールも、あちこちで見かけるようになってきました。今週号のTimeでも、反戦運動が直面しているジレンマがとりあげられていました。ブッシュ政権への批判を、如何にして今戦っている兵士達の気持ちに反しないようにできるか、兵士を尊重しながら、反戦を国民の気持ちに訴えるにはどうしたらいいのか、非常に難しい状況に立たされているという話でした。僕の印象としては、アメリカ国内はブッシュ政権をサポートする方向に団結しはじめていると思います。アカデミー賞でのMoore監督のスピーチが、かなりネガティブに受け止められ、感想を聞かれた俳優さんが非難めいたコメントを出していること(Tonight show with Jay Leno, on Friday)もその一つの姿であるように思えます。国のために戦っている兵士をみんなでバックアップしようではないか、という雰囲気が、メディア中心に発せられているように思えます。大学の新聞でも、international studentsの反戦コメントに対し、American studentsはやはりバックアップの姿勢を示すコメントがあるように思えます。中途半端なことは許されないでしょうし、イラク側がsuicide attackを始めたこともあり、悲しいことですが大きな被害をもたらす恐れが高くなってきました。戦争が始まって実際に被害が出始めている今、アメリカでは簡単に反戦を口にしにくくなってきているように見えます。私自身も、戦争で人が死んで国土が荒れて行くことには堪え難いものがあるのに、テレビで「国のために戦い死んで行った兵士のことを思えば、簡単にこの戦争は間違っているとは言ってほしくない」と死者の家族に言われると、何も言えなくなってしまうのです。
僕が思うのは、宗教戦争になりかねないこの戦いに、アメリカは果たして心の準備ができていたのかと言うこと。すべて力ずくでアメリカ寄りの政権をイラクにたてたとして、その後に残るアラブ諸国の反アメリカ感にどう対応して行くのでしょうか。アラブ諸国のイスラムの土台の上に、欧米由来の民主主義が果たしてそう簡単に根付くのでしょうか。かえって不安定な土壌をつくり出してしまうのではないかという気がしてなりません。最近Natureにも掲載されていた、イスラム諸国のサイエンス発展のための会議でも、西側の先端科学とイスラムの概念の間にあるギャップをどうやって埋めて行くのか、が議論されていましたが、根は非常に深いところにあり、そう簡単には解決できそうにありません。前にPBSのドキュメンタリーで見た、トルコのイスタンブールにある大学での問題はその意味で非常に興味深いものでした。ムスリムの女子学生がスカーフをかぶり教室に行くことを大学側が禁止したことに対し、大きな反発が女子学生側からあがったのです。スカーフをかぶることは信仰上非常に大事なことで、そのことで誰にも迷惑をかけるわけではないし自分達は危険分子ではない、と主張する彼女らに対し、大学の女性教員らは、国がイランのようにイスラム化し、女性が大学で働きにくくなることを非常に恐れているために、そのような措置をとらざるを得ないという主張なのです。最近政権が変わったのでどうなったのかはわかりません。しかし、このことは問題の難しさを示しています。ある時、僕の友人(女性)とアフガニスタンへのアメリカ軍の侵攻は是か非かを話していて、"The West Wing"でイスラムの信仰のもと女性の権利を認めないことに対し反発していたホワイトハウス報道官(C.J.)の女性のことが話題になりました。僕の「これは内政干渉であり、イスラムのもとで平和に暮らしている女性たちにはかえって迷惑なのでは」との問いに対し、彼女は「しかしイスラム以外何も知らないまま育ち、選ぶ自由がないわけだから、彼女の姿勢は理解できる」というわけです。そのように考えたことがなかったのでなるほどと思いました。僕の周りにはモルモンはもちろん、カトリックやプロテスタントでミショナリーに出かけて行く人が結構います。アジア諸国へ向かって行く彼/彼女らのことがどうしても理解できないところがありましたが、選択肢を広げるためなのだという観点に立てば、ミショナリーも意味のあることなのだと理解するようになりました。同じレベルで話してはいけないことですが、アメリカのイラクに対する思いも同じようなものなのかもしれません。残念なのは、宗教の争いになってしまいそうなことです。欧米が育ててきたキリスト教に基づく民主主義が、アラブ諸国で理解され、イスラムの概念とうまく融合し生活の向上が見えてくればいいのですが、今はまだ不透明な気がします。フセイン大統領は、彼が国際的に非難を受けていることを棚にあげ、これは宗教戦争あるいは欧米のイスラムへの挑戦であるかのように見せて、反米をあおっていることが残念でなりません。宗教の土台の薄い我が国日本はすんなりと欧米の民主主義を受け入れることができましたが、そうはいかないアラブ諸国のこと、戦争の前に何かできることはまだなかったのかと言う思いがあります。
アメリカは世界から孤立するのでしょうか。僕はそうは思えません。今の世界の動きはなんだかんだいっても、やっぱりアメリカが中心なのです。それは世界一の軍事・経済力があるからでしょうけれど、それだけでなく「英語」という武器があるからではないでしょうか。今後ロシアや中国が国力を高めて行っても、彼等の言語が世界共通語としてビジネスや交渉の場で使われることはないでしょう。我々研究者の場合でも、国際学会の共通語は英語、投稿論文の発表の場は英文雑誌です。ポスドクとして海外へ進出する多くがアメリカを活躍の場にしています。これからも英語を使いこなし、交渉の場でしっかりと物事を言える人材が世界を動かして行くのではないでしょうか。そのことを思えば、英語を母国語とし育ってくるアメリカ人が優位に立つこの傾向が変わることはないと思います。土曜日に放送されたフィギアスケートの世界選手権を見ていて驚いたのは、上位にくる選手の多くが、なんらかの形でアメリカと関わっているのです。ロシア国籍だけれど練習はコネチカットでやっている、という具合です。アメリカ代表として参加している選手も、最近アメリカ国籍を取得した人であったりして、驚きました。去年の夏、サッカーのワールドカップでアメリカがベスト8に入ったとき、サッカーに人気が出て本気でアメリカが勝ちにくるようになったら、世界の一流選手をみな帰化させてドリームチームを作ってしまうのではないか、というジョークがありましたが、恐ろしいことに実際に起きそうな気すらしてきました。
日本の対応ですが、アメリカでは全くと言っていい程何の報道もありません。まあ軍を出すわけではないので、同盟国といっても扱いが少ないのは仕方がないでしょう。それにしても、北朝鮮絡みであっても話題にすら上らないです。フランス、ロシア、中国といった国連の常任理事国はその動向がニュースをにぎわせていました。同じ第2次世界大戦の敗戦国のドイツについても、反戦の態度を示したことで大きく報道されていました。これらを見ていて、日本が世界に与える影響力って本当に小さいと思いました。インターネットで集められる情報では、どうも日本政府の対応は後手にまわり、あたふたしているように見えます。北朝鮮のことがあるから、日本はアメリカに付かざるを得ないので、小泉さんの判断はまあ消去法であれしかなかったのだろうと思いますが、それにしても、もう少し日本にできることはなかったのか、と思いました。しかし、インターネットで見る限り日本でも多くの議論が始められているので、これからは日本の中だけでなく、外にも目を向ける人が増えてきそうで、それはとても大事なことのように思いました。
非常に取り留めのない、まとまりのない感じもありますが、このへんで今回は終えておきます。最後に、ペルー出身の学生さんが僕に教えてくれたことを書いて締めくくりたいと思います。「Seiji, 一部の個人を見てその国を判断してはいけない。どこの国でもいい人もいれば悪い人もいるんだよ」