2012年5月21日
郷原さん(Science #6079, 6080, 6081)
1. Yeastのプリオンタンパク質が環境ストレスへの応答に関与しているというお話。プリオン化するタンパク質Mod5を新規に発見し、さらにそのMod5がプリオン化するYeast株においてはtRNA-isopentenyltransferase活性が低下し、エルゴステロールの合成量が増加することを示していた。このエルゴステロールは抗真菌薬のターゲットとして有名らしく、Mod5がプリオン化する株では抗真菌薬Nocodazoleへの耐性が強くなることを示していた。
2. タンパク質の折りたたみ中間体の構造をNMRで解いた、というお話。凝集化しやすい変異タンパク質を用いている。ポイントは、よく分からないが特殊なNMRを用いているところらしく、この特殊なNMRでは1%存在比のマイクロ秒〜ミリ秒の中間体の構造が解けるらしい。どれぐらいこのNMRが有用なのかよく分からないが、タンパク質のダイナミックな相互作用時の構造が解ける時代が来ているのかもしれない。
3. 嫌気性条件下と好気性条件下で、様々なタンパク質の発現レベルをどのように変えているのか?という話。大腸菌においては転写制御因子であるOxyRというタンパク質が担っているようだ。このOxyRは好気性条件下では酸化されているのだが、嫌気性条件下ではその酸化部位が代わりにS-Nitrosyl化されており、それぞれの状態で転写のターゲットが違うらしい。
4. Yeastにおいてアセチル化が、オートファジーに必要な酵素とか因子とかを制御しているというお話。ESA1というタンパク質がAtg3のアセチル化を行い、それによってAtg3-Atg8間のcontactがなくなることによってオートファジーが起こる、という新規な経路を発見したという内容だった。
5. (おまけ) 若者ほど逃したチャンスに対する感受性が高い、というお話。若者にチャンスを逃させた時の脳の状態をモニターし、脳の活性状態を調べたという実験らしい。健康な老人は感受性が低いが、抑うつな老人は若者同様感受性が高いらしく、人生観的な意味で色々と考えさせられる内容だった。
大羽さん(PNAS Vol.109 No.17, 19)
6496. 黄色ブドウ球菌のトランスグリコシラーゼの結晶構造を解いたというお話。何も結合していないものとLipid IIが結合したものの構造を解いており、細胞壁多糖の伸長反応のサイクルについてのモデルを立てていた。
6698. 細菌のDNA分配のシステムの一つであるParAのシステムに類似したPpfAのシステムによって、Chemotaxisisクラスター中の細胞質内レセプターであるTlpTの分配や、DNAの分配が行われることを示したお話。PpfAの様々な変異体 (例えば、ATP bindingドメインの変異体、二量体かできない変異体、DNA bindingドメインの変異体など)について、PpfAとTlpTの共局在、PpfAとDNAの共局在を観察したという内容。なお、ParAはMinDと似ており、よってFlhGとも似ているらしい。FlhGのATP binding部位などに変異を入れているのが小野さんのテーマであると小嶋さんが言っていた。
7458. インフルエンザウイルスの細胞への感染メカニズムのお話。インフルエンザの感染には細胞のシアル酸化が関与するということはすでに知られており、このシアル酸化を起こすGnT1を欠損させたホスト細胞へのインフルエンザウイルスの感染を見たという内容。さらにリンパ液 (シアル酸レセプターを多く含む)中でのGnT1欠損細胞への感染も調べていた。役者が多くていまいちデータのどの部分が重要なのかよく分からなかったが、とりあえずウイルスが持つヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)のバランスが感染に重要という結論らしい。