平子先生 Science #6231, 6232
 1) 受精後の細胞分裂時の染色体ロストにより染色体数が減少した異数体の話。次世代シーケンサーを用いた出生前診断のデータより、父方が異数体の場合は染色体が欠けやすい状態になっていたそうだ。このような異数体と相関のありそうな遺伝子も分かったようだが、その遺伝子が原生人類とネアンデルタール人のゲノムの異なる部分と合致しており、このような染色体異常をもたらす変異は人類の個体減少のために獲得された形質なのでは?という進化論的な議論がなされていた。種の生存に有利な形質獲得の話はよく聞くが、今回の話は衝撃的だった。遺伝子異常を確認しやすくなった今、卵の遺伝子確認をするようなことがあったら人類は種が長生きする方を選択するような気がする。次世代シーケンサーがこのような現場で使われているということも驚きだった。

 2) ユビキチンプロテアソーム系について、一分子解析を行った論文が同一グループから2報出ており、そのうちの一報はプロテアソームの分解効率が最も良くなるユビキチンの結合形態に関するお話だった。今まではテトラなユビキチン結合によりタンパク質がプロテアソーム系に輸送されると考えられていた。今回、タンパク質がプロテアソームにつくためには結合しているユビキチンの総数が関与し、タンパク質が分解されるためにはモノユビキチンやテトラユビキチンよりも二量体のユビキチンの方が効率が良くなることが示された。より細かな機構を調べることで既存のモデルが変更された、面白いお話だった。

 3) ミトリボソームの構造解析の話。ミトコンドリアのリボソームは、細菌のものと形状が似ているが、少し異なる部分があることをクライオ電子顕微鏡による構造解析で詳細に示していた。3.8Åの解像度で解けたらしい。mRNAとの結合や、チャネルの留め金になると予測されるサブユニット等が示されていた。生物物理のランチョンセミナーでクライオ電顕による構造解析が流行っているという話があったが、年末までにどのくらい数が増えるのだろう。

錦野君 PNAS No. 33, 35
 1) コレラ菌のバイオフィルム形成に関するお話。RbmAというタンパク質がプロテアーゼにより分解されるとバイオフィルム形成が促進されるが、今回の論文では分解位置が特定された。また、RbmAが細胞外に分泌されていることがバイオフィルム形成に重要であることも分かった。最近のNature Reviews Microbiologyにも、RbmAを始めとするコレラ菌のバイオフィルム形成に関わる因子のお話が出ていたので、そちらも読めば更に勉強になりそう。

 2) システインラベルにより、膜タンパク質の構造予測ができる話。SCAMという方法で、2種類のラベルを用いることによりシステイン残基のある場所が細胞膜内か外かを判別することが出来る。チャネルの構造解析によく使われている方法らしい。この方法を用いてカルボン酸受容体DcuSがセンサーとしてシグナル伝達を行う際に生じる膜貫通部の構造変化を示していた。1残基ずつの変異実験は大変そうだが、画期的な手法だと思った。

 3) T4ファージがミニセルに感染する開始段階の様子を、電子顕微鏡で観察していた。ニードルが膜を貫通し、カプシド内のDNAが時間が経つにつれ無くなっていく様子などが得られていた。3Dトモグラフィーの動画ではファージの構造なども示していた。T4ファージはいつ見ても人工的な形状をしているように思える。ミニセルにファージが1本のlong fiberだけで接触している写真が、まるで宿主側がファージから逃れられない様子を表しているようでぞっとした。

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