あっという間に今年度も最後の速報会となりました。今日は3名の発表で、それぞれ面白かった内容をまとめてみます。

錦野くん:Nature #7613 &7638
2冊から4報の紹介がありました。リボソームの話題が2つでそのうちの一つは連報で3つが同じ内容(stop codonのない場合の翻訳終結がどのように起こるのか、クライオ電顕で高解像度の構造を解析)でした。リボソーム以外の2報のうち、一つ(Zipperer et al)は、ヒトの鼻の中の常在菌から抗生物質を見つけ出したと言う話で、耐性菌の出現が低いこと、イオノフォア様の作用機構を示すと考えられることから、多剤耐性菌を駆逐する効果が期待されていて面白かったです。もう一つの話題、枯草菌にかかるphageの溶原化を決める分泌性因子AimPの話(Erez et al)も興味深かったです。溶原化のメカニズムは意外にわかっていないことが多いということにも驚きがありました(私が知らないだけかもしれませんが)。

水野くん:Science #6321, 6322 & 6323
3冊からそれぞれ1報ずつの紹介です。最初のMiyamoto et alの話では、自分の嗜好を認識する能力がサルにも備わっていることを示していました。メタ認識とメタ記憶という機構はこれまでヒトにのみ備わっていると考えられていましたが、緻密に考えられた行動テストにより、サルにも存在することが見いだされました。前頭葉で働く位置もどうやらヒトと同じ部位のようです。この能力がどのように獲得されてきたのかが今後の課題になりそうです。2つめのNakayama et alは、名大の生命理学(松林研)の研究で、カスパリー線の形成に必要なペプチドホルモンを発見したという報告でした。水野くんの同級生の活躍があったようです。受容体は見出されていましたが、ホルモンは見つかっていなかったようで、それをたくさんの候補の中からスクリーニングにより見出したとのことでした。カスパリー線がないと、植物の根のバリアが不完全になってしまい、育ちが悪く矮小な植物になってしまうので、重要なホルモンの発見だと思います。3つ目のトマトの味をよくするためのロードマップの話(Tieman et al)は、栄養となるリコピン量を増やす方向に品種改良をすすめたために固くなってしまったトマトを、揮発性物質の発現を制御することで味が良くなるのではないかとの話でした。アメリカではトマトは本当にたくさん売っていて、私はミニトマトをスナックのように食べていたことを思い出しました。

近藤くん:PNAS Vol. 114(5, 6, 7)
3冊から3報の発表でした。最初のChamoto et alのPD-1抗体を使った癌治療の話では、PD-1が効かない3割の患者さんの場合エネルギー代謝関連シグナルの制御がキーになるということで、新たな展開が望めそうな気がしました。普段私はこうした論文をあまり読んでいないので、勉強になります。2つ目(Conrad et al)では、結核菌のtype 7 輸送系で分泌される因子ESAT6の作用の話がありました。詳細はちょっとわかりませんでしたが、ESAT6は感染したホスト細胞と菌が接触した時に分泌され、ホスト細胞の膜の上に穴を開ける性質があるようです。赤血球の溶血を上手に使った解析で明らかにしていました。3つ目の話は、女性にのみ起こる神経疾患(X染色体上の異常)についての話で、この疾患はX染色体上の変異がもたらすが、対になるX染色体の片方がどうやら発生後に不活性化されるために引き起こされるらしい。BMPシグナルの経路を活性化させると発症抑制の効果がある、という報告なのですが、近藤くんも言っていた通り、BMPはいろいろなところに作用するので、副作用が問題にならないかが気になるところでした。

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