本間先生 Science #6382, 6383, 6390
今日のお話は非常に面白かったです。大事なところがよく分かってとても参考になりました。印象に残ったのは下記の3報です。

#6382_Thaiss et al; 糖尿と肥満によって細菌感染へのリスクが高まるメカニズムの一つが分かったという話。肥満を引き起こす変異を持つマウスの上皮を調べると、ギャップジャンクションに関与するZO-1に変化が見出されたようです。つまり、肥満/糖尿によってギャップジャンクションがスカスカになってしまい、細菌に対するバリアが崩れてしまう為に、感染しやすくなるようです。この現象を食い止めるには、どのようにしてZO-1の変化を引き起こすのか、そのメカニズムを明らかにする必要があります。

#6382_Terenzio et al; 神経軸索に損傷が起きたあと、回復する過程で何が起こっているのかその一端が明らかになったという話です。損傷部位近くには核がありませんから、mRNAをそこまで輸送する必要があります。輸送されるmRNAにコードされたmTORが、損傷部位においてリン酸化を行い、修復に関与する因子の活性化を引き起こしていることが分かりました。考えてみれば当然ではありますが、翻訳後の修飾が適切に行われないと、修復作業が進まないので、生物は非常に理にかなったことをしていると改めて感じました。

#6383_Norimoto et al; 東大・池谷研のお仕事で、海馬への記憶の書き込み(fixation)がどのように起こるのかを解析しています。知らなかったのですが、Sharp Wave Ripple (SWR)と呼ばれる脳波の中の波形があり、今回はチャネルロドプシンを使ってSWR波を特異的になくすことに成功したようです。SWR波を出せないマウスを使い、眠ったあとに学習させて野生型と比較したところ、SWRを出せなくなると記憶力を示すインデックス値が有意に下がっていました。SWR波はどうやら記憶の定着に効いているようです。

平野くん PNAS Volume 115, issue 16
平野くんにとって初めての速報発表でした。的確に整理していて、上手な発表でした。

Logan et al; コレラ菌がホストの腸管で常在菌を駆逐する仕組みを調べた論文です。私は今までコレラ菌の持つType VI輸送装置が異種の菌細胞にエフェクターを撃ち込んで死に至らしめる、と思っていましたが、今回のゼブラフィッシュ腸を用いた実験からは、Type VI輸送装置から分泌されるエフェクターが腸管を揺らすような動きを引き起こし、それが常在菌を取り除く原因になっているらしいことがわかってきました。

Bernard et al; ライム病を引き起こすボレリアという細菌がホストの中でなぜ長期にわたり存在を維持できるのか、というのが問いです。これまでにボレリアの分泌性因子がいくつか同定され、それらによって好中球がもたらす殺菌作用を抑えてしまうことがわかっていました。今回、そうした因子の発現を制御し、さらにホストのケモカインにも影響するBBA57という因子を同定したという話です。私の友人がボレリアを用いてべん毛基部の構造を見たり、走化性を解析したりしていますが、その生態については知らなかったので興味深かったです。

Kadam and Wilson; ヘムアグルチニン(HA)は、インフルエンザウイルスの表面に存在する糖タンパク質で、感染対策において重要なタンパク質です。HAが細胞表面のシアル酸に結合することがウイルス感染に重要なので、その部分をブロックするような薬が望まれるわけですが、これまで直接シアル酸結合部位に作用する試薬を見いだせていませんでした。今回、HAの結晶化を行う際にbufferの中にN-Cyclohexyltaurine(NCT)という化合物が含まれると結晶が出現し、構造を解いてみるとシアル酸結合部位の全く同じ残基にNCTが結合していることが分かりました。さらに、別のタイプのインフルエンザでは、HAの別の部位にもNCTが結合することが分かりました。これらの結果を用いて、より直接的にウイルス感染を阻害する薬の開発が進むのではないかと期待されます。

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