レセプター研究グループ

はじめに

 当研究室では、べん毛モーターの回転機構・構築機構について、様々な技術を用いて研究しています。
 べん毛モーターは、数μM の細菌に取って、巨大な構造物であり、非常に大きなエネルギーを使って合成・維持しています。なぜ細菌はべん毛モーターを持っているのでしょうか。このquestion は言い換えると、細菌はべん毛モーターを何に使っているのか?という問いに置き換えることが出来ます。その答えの一つは、より良い環境に集まるため、より有害な環境から遠ざかるためです。しかし、動くための器官を持つだけでは、そのような機能を果たすことが出来ません。車にエンジンだけあっても意味がないように、制御することが重要になるわけです。制御する部分は、外部環境とより接するところである生体膜に埋まった蛋白質で、受容体と呼ばれています。私たちは、この受容体のうち、特に光環境をセンスする受容体、ロドプシンに興味を持って、情報伝達機構の研究を行っています。[論文は、我々のグループが中心となって行ったもののみ掲載しています、全ての論文をご覧になりたい方は、こちらのURL を参照下さい。

  1. Sudo, Y., et al. (2004) Recent Res. Devel. Biophys. 3, 1-16. [review]
  2. 須藤雄気 (2006) 生物物理 46, 330-335.

(1)光受容体・ロドプシン蛋白質

 植物園で色とりどりの花を見て心豊かになり、美術館で色彩豊かな絵に感動し、スーパーで色づきの良い果物を購入する。生物にとって“色”を認識することは、聴覚・味覚などとともに、重要な感覚応答である。それでは、どのように色を見分けているのだろうか?ヒトなどは、青・緑・赤の光を吸収する3種類のタンパク質により、丁度絵の具の混ぜ合わせのように“色”を見分けている。
 1984年以降、細菌も青色と緑色を認識していることが明らかとなった(図)。これら受容体もレチナールを持ち、7回膜貫通型タンパク質であることなど、ヒトと共通の特徴を持っている。これらは総称してロドプシン類と呼ばれる。我々は、青色光受容体(SRII)を中心に、色認識や信号伝達に関する研究を行ってきた。最近、緑色光受容体(SRI)や、他の微生物型ロドプシンに研究対象を広げ、生理機能や構造、構造変化について解析している。

  1. 須藤雄気 (2008) 生物物理, 49, 25-26.

(2-1)遺伝子の単離と蛋白質の精製[分子生物学的、遺伝子工学的手法]

 実際に外部光シグナルを受容する、受容体の遺伝子・蛋白質を実験に耐えうる量と質で得る事は、極めて重要です。膜蛋白質は、取り扱いの難しい蛋白質として有名であり、使用する界面活性剤や発現条件の最適化が困難な場合が多いが、図の様に、私たちは様々な色を受容し機能するロドプシン類を高純度に得ることに成功しています。大腸菌、好塩古細菌、酵母などが実験材料です。

  1. 須藤雄気ら(2005) 実験医学 23, 1933-1937.
  2. 須藤雄気ら (2005) 遺伝子医学別冊MOCK 41-46.
  3. 須藤雄気 (2008) タンパク質科学会・アーカイブス #009.

(2−2)“色”をどうやって識別するか?[生化学的手法]

 ロドプシン分子には色がありますが、全てレチナールという黄色の分子が素になっています。360nm から600nm に及ぶ幅広い色をどのように実現しているのかは、生物学的にだけでなく、化学的、物理学的にも興味深い問題です。私たちは、生化学的にこの問題にアプローチしています。

  1. Shimono, K., et al. (2003) J. Biol. Chem. 278, 23882-23889.
  2. Suzuki, D., et al. (2009) J. Mol. Biol. 392, 48-62.

(2−3)光励起に伴った構造変化の解析[構造生物学的手法、分光学的手法]

 受けた光がどのような構造変化に結びつくのか、についても興味を持っています。光を受けるとK, L, M, N, O といった光化学中間体を経て、元に戻ります。この反応はフォトサイクルと呼ばれます。このフォトサイクル中の変化を、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、溶液NMR 法、固体NMR 法、X 線結晶構造解析などの構造生物学的手法に基づいて研究しています。また、時間分解可視吸収変化、低温可視分光法、ラマン分光法などの種々の分光学的手法を用いて研究しています。

  1. Sudo, Y., et al. (2008) Biochemistry 47, 2866-2874.
  2. Sudo, Y., et al. (2008) Biophys. J. 95, 753-760.
  3. Kitajima-Ihara, T., et al. (2008) J. Biol. Chem. 283, 23533-23541.
  4. Suzuki, D., et al. (2008) Biochemistry 47, 12750-12759.
  5. Yagasaki, J., et al. (2010) Biochemistry in press.

(2−4)どのように光情報が伝わって行くのか?[生化学的手法、分光学的手法、細胞生理学的手法]

 光情報は、受容体を活性化した後、後続の蛋白質へ伝わり、最終的にべん毛運動へと変換されます。実際の光への応答を細胞生理学的に解析したり、分光学的手法、生化学的手法を組み合わせながら、情報伝達(シグナル伝達)を分子・原子レベルで解明することを目指して研究を行っています。

  1. Sudo, Y., et al. (2001) Biophys. J. 80, 916-922.
  2. Sudo, Y., et al. (2002) Biophys. J. 83, 427-432.
  3. Sudo, Y., et al. (2003) Biochemistry 42, 14166-14172.
  4. Sudo, Y., et al. (2004) Biochemistry 43, 13748-13754.
  5. Sudo, Y., et al. (2005) Biochemistry 44, 6144-6152.
  6. Sudo, Y., et al. (2005) J. Am. Chem. Soc. 127, 16036-16037.
  7. Sudo, Y., et al. (2006) J. Mol. Biol. 357, 1274-1282.
  8. Sudo, Y., et al. (2006) J. Biol. Chem. 281, 34239-34245.
  9. Sudo, Y., et al. (2006) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 16129-16134.
  10. Sudo, Y., et al. (2007) J. Biol. Chem. 282, 15550-15558.
  11. Sudo, Y., et al. (2009) Biochemistry 48, 10136-10145.

以上の研究は様々な共同研究者にお世話になっております。

  • 名古屋工業大学:神取秀樹教授、井上圭一助教(FTIR、他の分光測定)
  • 分子科学研究所:古谷祐詞准教授(ATR-FTIR)
  • 奈良先端科学技術大学院大学:児嶋長次郎准教授(溶液NMR)
  • 横浜国立大学:内藤晶教授、川村出研究教員(固体NMR)
  • 東京工業大学:藤井正明教授、酒井誠准教授(高速レーザーフォトリシス)
  • 名古屋大学遺伝子実験施設:井原邦夫助教(新規ロドプシンの遺伝学的解析)
  • 北海道大学:菊川峰志助教(時間分解過渡吸収変化)
  • 大阪大学:今田勝巳准教授(X 線結晶構造解析)
  • 大阪大学:水谷泰久教授、水野操助教(ラマン分光法)
  • 米国・テキサス大学:John L. Spudich 教授(細胞生理学的解析)
  • 韓国・ソガン大学:Kevin Jung 教授(新規ロドプシンの解析)
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