神経機能老化の研究

はじめに

 細胞の老化を分裂寿命という観点で見ると、細胞分裂に伴う染色体末端構造(テロメア)の短縮によって説明されうる。しかしながらテロメア短縮は、細胞分裂を終えた神経細胞にはあてはまらない。また、細胞老化研究の奔流として、DNA損傷、タンパク質凝集、細胞膜損傷などのダメージが細胞に蓄積するというメカニズムがあげられる。しかしながら、これらの受動的なダメージの蓄積は、老化を加速させることを説明しうる一方で、生物種間の老化スピードの差異を説明しない。そこで我々は神経機能の老化をつかさどる遺伝学的プログラムが存在するのではないかと考え、その解明を目指して研究を進めている。さらに、このような遺伝学的プログラムに影響する外的要因として食餌に着目し、食餌がどのように神経機能老化に影響するのかを明らかにしようとしている。

老化の研究アプローチ

我々は神経機能老化を研究する上で下記の特長を有する線虫C. elegansを用いている。
・寿命が2-3週間程度と短く、神経機能の老化も生後一週間程度で行動の計測可能な変化としてあらわれる。
・遺伝学と様々な遺伝学的ツールが発達している。
・個体寿命と神経機能の研究が進んでいる。
・体長が1mmと小さく多個体の飼育が容易なので老化と行動が有するバラつきに対抗できる。
・雌雄同体であるので容易に遺伝的バックグラウンドの均一な集団を得ることができる。
我々は線虫を用いて老化個体を用いた種々の行動の減弱を定量化し、それに影響する遺伝子群を逆遺伝学あるいは順遺伝学的アプローチで明らかにしようとしている。さらに、線虫の餌として利用される細菌の種類を変えることにより、食餌がどのように神経機能老化に影響するのかを調べている。このような分子機構の研究を通して、神経機能の老化をプログラムされたものとしてとらえなおしたい。

Copyright©2009-2010 Group of Microbial Motility. All rights reserved.