べん毛交流会の目的

細菌は菌体外に作った細いらせんのスクリューを回転させて推進力を作り、運動をする。細菌は、ただべん毛をやみくもに回転させているわけではない。環境の変化を細胞膜に存在するレセプターにより感じ、その菌体外の刺激を細胞質側のレセプターに伝達し、さらに、細胞質内のリン酸化カスケードでのシグナル伝達機構を通して、べん毛基部に存在するモーターの回転方向を制御することで、よりよい場所に移動することができる。これは、感覚受容と情報伝達とその応答の謎に迫れる。そのべん毛モーターは、細胞外から特定のイオンが流れ込むエネルギーを回転力に変換する事で駆動される。これは、生体エネルギー変換機構の謎に迫れる。べん毛は多くの遺伝子がその形態形成に伴って秩序立って制御される。これは、遺伝子の調節作用や細胞構造の分化の謎に迫れる。タンパク質が部品として組み立てられることにより高次の構造体であるべん毛が構築される。生物のかたちが決まる謎に迫れる。このようにべん毛は、生命科学の重要な問題を内包し、かつ、非常に単純な原核生物であるが故に、分子レベルの解析あるいは物理的な解析が可能である。さらに、その解析を集めることにより、統合されたべん毛の生命像を作ることが可能になる。べん毛は、最も詳しく物理と化学の言葉で説明できる一つの生命体としてとらえることができよう。そして、極限まで物理と化学で生命を説明しようとしたときに、はじめて、物理と化学を越えた新しい理論体系を持った生物学が作られる可能性に足を踏み入れることができる。

 以上のような細菌べん毛の特徴を捕らえ、べん毛とその関連分野の研究者が集まることで、生命としてのべん毛研究を発展させようとするものである。